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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)563号 判決 1973年6月19日

原告 株式会社 増富

被告 本郷武志

主文

一  被告は別紙目録記載の建物について横浜地方法務局平塚出張所昭和四六年一月二二日受付第一三三八号の停止条件付賃借権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和四六年一月二〇日、被告と別紙目録記載の建物(以下「本件建物」と略称)の所有者であつた訴外小山田和男との間で、本件建物について、被告が小山田に対して有する証書貸付、手形割引、手形貸付契約に基づく債権を一五〇万円の限度で担保する根抵当権設定契約と、小山田が右消費貸借契約に基づく債務を弁済しないときは被告において存続期間三年、賃料月二阡円、譲渡、転貸ができるとの特約ある賃借権を取得する旨の停止条件付賃借権設定契約が締結され、同月二二日横浜地方法務局平塚出張所受付第一三三六号、同日同出張所受付第一三三八号をもつてそれぞれ三番根抵当権設定登記、停止条件付賃借権設定仮登記がなされた。

2  本件建物は、横浜地方裁判所小田原支部で、二番根抵当権に基づく競売に付され、原告において、これを競落し、昭和四七年七月一七日競落許可決定を経て競落代金を支払いその所有権を取得した。

3  右根抵当権設定登記は、同年一二月二〇日同法務局出張所受付第二八〇〇二号をもつて抹消されたが、右停止条件付賃借権設定仮登記は抹消されていない。

よつて原告は被告に対し、右停止条件付賃借権設定仮登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

理由

一  請求原因事実については当事者間に争いがない。

ところで、抵当権の実行により不動産が競売された場合、競落によつて当該不動産上の抵当権、先取特権が消滅する(競売法第二条第二項)とともに、これらの担保権に対抗できない権利もまた競落によつて消滅するものと解されるところ、民法第六〇二条に定める期間を超えない賃借権は、抵当権設定登記後に登記されたものでも、同法第三九五条により抵当権者従つて競落人に対抗しうるものとされている。

二  そこで、被告が仮登記を有する本件停止条件付賃借権が右第三九五条の保護を受けるものかどうかについて判断する。

前記判示のとおり、被告は、本件建物について、同一日付で根抵当権設定登記、停止条件付賃借権設定仮登記をなしており、右停止条件付賃借権は小山田が被告に対して負う消費貸借契約による債務の不履行を条件とするものであるから、この事実からすれば、被告は同一の債権を保全するために右の二個の登記をなしたものと認められる。そして、一般に抵当権設定登記と併用してなされた民法第六〇二条の期間を超えない停止条件付賃借権設定仮登記は、抵当権の実行にいたるまでの間に第三者が同法第三九五条のいわゆる短期賃借権を取得するのを防止し、その解除請求のわずらわしさを免れるとともに、債務不履行の場合は、該賃借権に基づき自ら目的不動産を利用するか、または他に譲渡もしくは転貸してその対価を債権の弁済に充当する等の実質的な担保機能を果たすものであると解される。

そして、このように抵当権と併用され、その被担保債権を担保する停止条件付賃借権は、民法第三九五条にいわゆる短期賃貸借に該当するものとはいえず、競落によつて消滅するものと解するのが相当である。

けだし、民法第三九五条の趣旨は、抵当権設定後抵当不動産について第三者の取得した用益権が抵当権の実行により、ことごとく覆滅せしめられることは、抵当不動産の利用にとつて大きな障害であるところから、例外的に、一定限度の短期賃貸借で内容の合理的なものであれば、抵当権者にこれを甘受させて抵当不動産の利用を確保しようとするものであるが、合理的な内容をもつ短期賃貸借ですらその存在によつて抵当不動産の競売価額の低下をきたすのが通常であることを考えると、同条の適用は、厳格に抵当不動産上の用益権の保護の趣旨に限られなければならないものであるところ、抵当権の被担保債権につき競落代金からなにがしかの配当がされる場合であると否とを問わず、目的不動産の競売により、その抵当権がいわば目的を達して消滅する段階に立ち至つたとき、ひとり当該抵当権の被担保債権を担保するための停止条件付賃借権だけを独自に存続させなければならないとする合理的理由は見当らず、むしろ、かような権利は被担保債権を共通にする抵当権と運命をともにし、後者とともに消滅するとしても、前記抵当不動産上の用益権の保護の趣旨にいささかも反するところはないと解されるからである。

したがつて、被告の本件停止条件付賃借権は、先順位の抵当権者に対抗しえず、よつて本件建物の競落によつて消滅した結果、被告の有する停止条件付賃借権設定仮登記はその根拠を欠くにいたつたものというべきである。

よつて、原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井口牧郎)

別紙 目録<省略>

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